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地球誕生のストーリー

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 夕刻の西空に沈んでいく三日月を見送りながら、あの月がもっと巨大で荒々しく空に君臨し、地球を猛毒の海が覆っていたという太古に想像をめぐらせてみた。興味を持てば優れた案内本に事欠かない時代である。

 地球の年齢は46億歳。それを実証したのが1969年、アポロ11号が地球に持ち帰った月の石の分析結果である。地球と月はもとは一つの惑星だった。

 原始地球は誕生からおよそ1億年ほど後、ジャイアント・インパクトとよばれる惑星同士の衝突に見舞われる。このとき地球の周りに剥ぎ飛ばされた塵が再び凝縮して月になったというのだから、それは想像を絶するような大破局であった。地球上に整えられつつあった生命の起源に関する物質の大半はここで失われてしまったという。

 だが、この大破局こそが生命創造のベルを鳴らし、現在に至る多様な生命体を形づくったのだと学者の解説は続く。(『生命・40億年はるかな旅』)

 宇宙へ散った物質は無限の衝突エネルギーを得て互いに結合し、新たな有機化合物として再び地球に降り、誕生した原始の海を生命の材料で満たす。巨大な月は想像を超える潮の干満をもたらし、その海を生命の揺りかごへと変えていったのだ。

 当時の海は人には猛毒の物質で満ちていた。だが、この毒をエネルギーにして世代をつなぐ生命体が現れて、それからの海は、新たな勢力と幾多の闘争と防衛と共存を繰り返し、真核細胞の時代を迎えるのである。

 地球の歴史を1年に縮めると人類は大晦日の午後11時59分に登場したといわれている。しかし命をひもとけば、いまの地球の生物はすべてこの細胞の仕組みを共有しているわけで、歴史は一本につながれているのだ。

 生命の前途にはいつでも逆境が用意されてきた。その原因はたいてい、自分自身を作り続けていこうとする生き物のふるまいがもたらした。それを避けることはできなかったが、時間をかけて乗り越える道を開くことで、生物は進化を重ねてきた。

 さて差し迫る課題を知恵で解決しなければならない現代人にとって、こういう話は実学には役立ちそうにない物語である。

 しかし、現実を突き詰めるときに夢は始まり、夢に徹するときに現実は新しい生彩を放って蘇ると先人は言った。地球誕生ストーリーはいまだからこそ見直したいと、こう思うのだ。
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