東京や埼玉といった川下の住民を川上の桐生市に招き、住民どうしの交流を深める事業の中で、市有林の下草を刈る恒例のイベントが中止になった。マダニの大量発生が原因だという。
日本紅斑熱などの感染症をもたらす生物として知られるマダニだが、最近は重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの宿主としても注目される。市有林を下見し、マダニの大量発生に気づいた主催者側が参加者の安全に配慮して取った今回の措置は、一つの見識である。
マダニは森林や草むら、田畑のあぜなど、どこにでもいるごく身近な生物なので、私たちが野外で活動をするかぎり、遭遇は避けられない。ただ、最近はイノシシやシカなどの生動物が市街地のすぐそばにまで行動範囲を広げており、こうした動物たちが人里にまでマダニを大量に運び込んでいる点は見過ごせない。地球温暖化に伴い、マダニが活発に活動する時期が長期化している点も、人との遭遇機会を増やす一因となっている。
畑仕事をしたり、野山を散策したりと、からだを動かすには気持ちのいい時期でもある。心とからだの健康を保つためにも、すがすがしい緑に触れる効能を積極的に生かしたいところである。そのためにも、マダニに対する注意点を把握した上で、野外活動に取り組みたい。
例えば、県衛生環境研究所がホームページで注意すべきポイントを紹介している。まずは肌の露出をできるだけ減らすこと。からだの柔らかい部位の方がかまれやすいので、帽子をかぶる、首にタオルをまく、長袖や長ズボンで腕や足を隠すといった基本事項が大切になる。
また、かまれても無理に抜こうとせずに、皮膚科などを受診する。SFTSウイルスの潜伏期間は6日から2週間程度なので、その間に発熱や下痢、腹痛といった症状が出たら、医療機関を受診することも重要だ。野生動物の通り道にはマダニも多いので、彼らの生態を知ることも危険を避けるヒントになる。
すべてのマダニがウイルスを保有しているわけではなく、かまれても発症しないケースも多い。県内での発症患者はこれまで1人もおらず、用心はしても恐れる必要はない。ただ、急激に変化する自然環境の中で生物のふるまいも変わる。こうした危険性と隣り合わせで暮らしているということを私たちが認識する。そのことが大事なのだ。
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