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核の倫理

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 オバマ大統領の広島での演説文を繰り返し読み返している。核兵器を持つ米国の大統領が「核なき世界」という理想をいくら唱えても説得力がないと、それはたしかに一理なのだが、ただ、被爆地で発せられたあの演説文には、人を立ち止まらせるだけの強い意志がある▼「原子の分裂を可能にした科学の革命は、道徳上の革命をも、私たちに要求している」。人類を破滅させる可能性を秘めた、核分裂反応という科学技術を手にして以来、問われているのはつねに、私たち自身の倫理である。そのことを問い直すために「私たちは広島を訪れるのだ」と、声は続く▼人類が人類を破滅させるという行為は、おそらく生き物としてのプログラムに反する。同種で滅ぼしあうことは、種の存続と相いれぬ行為。原爆で生まれたきのこ雲が啓示する大いなる矛盾の正体である。それはまた、福島第1原発の事故現場から漏れ続ける不安の正体でもある。「核」時代の新しい倫理を私たちはいまだつかめぬままだ▼演説文を読みながら、理念としての国連の役割に、改めて思いを巡らせている。自らを破滅させる力を、人類が共同管理する。世界戦争後の核の時代に、何度でも問い直したい視点だと思う。(け)
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