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永六輔さんのこと

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 永六輔さんが亡くなった。1933年4月、東京の生まれ、享年83だった。

 テレビのバラエティー番組「夢で逢いましょう」を知らない世代にとって、永さんとの接点はもっぱらラジオの番組だった。芸能への造詣が深く、自由自在で軽妙洒脱な話芸の中に、「戦争はよくない」という明確な視点を持ち、世の中で起こるさまざまな事象にもの申してゆく。そんな姿勢は、ラジオ番組の最後まで一貫していた。

 「戦争は嫌いでございます。親孝行ができません。なにしろ散らかしますから」。新内節の名手である岡本文弥さんの言葉を、ことあるごとに紹介していたのを思い出す。「散らかす」という言葉のざらついた手ざわりが、戦争を知らない世代にその本質を告げているようで、強い印象を受けた。戦争を経験した先人たちのこうした言葉の数々を、自身の経験に引き合わせながら紹介するスタイルが、永さんの思い出である。

 33年生まれといえば、12歳で終戦を迎え、大転換する価値観と目覚ましい戦後復興の中で大人になった世代である。テレビという新しいメディアが登場し、視覚化された芸能をお茶の間に届けた。その仕掛け人役に、遊びごころたっぷりに取り組んだ人でもあった。

 一方で、大きな権力には常に疑いのまなざしを向けていた。あの戦争を忘れるため戦後を終わらせたい人たちがいる中で、そうやすやすとは次なる戦前にさせまいとする意志があるようで、そこにこの世代の時代人たちの芯を感じたりもしていた。

 東日本大震災の後、多くの人たちが祈るような気持ちで、永さんの作詞した「上を向いて歩こう」を歌った。なぜ泣いているのか理由はわからずとも、それに耐えようとしている人の気持ちはわかる。ひとりぽっちに寄り添う歌なのだと、漠然と聞いていたのだが、最近はそれだけでなく、最後は誰に頼るでもなく、一人で耐えるしかないのだと、そんな力強いメッセージが聞こえてくる。

 戦争から70年がすぎ、戦争を経験した世代が徐々に他界してゆく。先日の参議院選挙では、初めて18歳からの選挙参加が認められる一方で、自民党が議席を伸ばし、憲法改正の議論が始まりそうな気配である。

 相対化の時代に、「戦争はいけません」と理屈なしに言い切れるよう、気概を持ちたい。
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