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いのちを生かすために

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 タマネギの価格が高い。桐生青果によると、九州の産地・佐賀県でべと病と呼ばれる病気がまん延し、タマネギの成長が妨げられ、全体に玉が小ぶりなのだという。品質に問題はなく、人が食べても健康への被害はないが、玉が小さい分、生産量が減少しており、全国的に品薄状態となった。北海道産が出回るまでは高値が続きそうだ。

 雨天や晴天が続いたり、強風が吹いたり、季節外れの冷え込みがあったりと、天候しだいで農作物の出来は大きく変わる。植物は生物なので、体力が落ちれば病気にもかかりやすくなる。農家はさまざまな危険因子を念頭に置きながら、こつこつと対策を施し、リスクを小さくとどめようと努力する。それでもなかなかうまくはいかない。

 せっかく順調に成長しても、鳥たちについばまれ、サルやイノシシなどの野生動物が実りのおこぼれにあずかろうと虎視眈々と狙っている。こうした危険をすべて排除することなどは到底できず、精いっぱいの対策を施したら、あとは神だのみなのだと、知り合いの農家は話す。そこに工業とは違う、生きものとつきあう農業の難しさがある。

 自然を相手にすれば、思い通りにいかないことなど当たり前のはずなのに、相手が人になると、自分の考え方や価値観が通じるものだと、つい思い込んでしまう。もちろん、事は簡単ではなく、議論で意見を一致させるのに苦労することなどは日常茶飯事。互いの意見を出し合い相手の考えを受け入れつつ、どこかで折り合いをつけ、落としどころを探るしかない。

 相模原市の障害者施設で、19人の入所者が殺害された事件について、26歳の男がなぜ許されぬ凶行に及んだのかと考える。施設に勤め、障害者と接しながら、おそらく彼の思い通りにならない現実があったはず。しかし、障害を抱えながら、思ったことや感じたことの表現に苦労しながら、それでも周囲に支えられて生きている人たちの価値観もまた存在する。支えることを喜びとする人もいる。弱い者のいのちを奪うことで何を果たそうとしたのかは見えない。

 5年前の東日本大震災で、多くの人のいのちが奪われてゆく事態に、私たちは遭遇した。ほかの動物や植物と同じく、人もまた最後は自然に身をゆだねるしかない。支えあうとは、人が受け身であることを知りながら、生きることに他ならない。
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