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おいしい秋を味わう

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 食欲の秋である。豪雨に長雨、日照不足と、農家を苦しませた天候も落ち着きを取り戻しつつあるようで、色づきが遅れていた秋の果物や、長雨にやられていた葉物野菜の生育なども、ようやく先が見通せるようになったのだと、農業関係者からは安堵のつぶやきを耳にした。

 今年初めての極早生ミカンを味わってみると、玉は小ぶりながら味の輪郭がくっきりと明瞭で、柑橘類特有の爽やかな甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。香りもよく、今年ももうそんな時期になったのかと思いながら、果実のおいしさを改めて実感した。

 味覚は甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五つの要素からなるそうだ。最近の果実で、おいしさの目安としてとり上げられる数値に「糖度」というものがあるが、これがどうも気になってしまう。確かに甘いのだが、甘さが強烈になる分、味が平板になってしまうようで、おいしさという価値基準からは、少し離れてしまう気がするのだ。

 自然界では希少な強い甘味を求めるように、果物の品種改良はますます進んでいる。ただ、甘味を強調するだけではおそらく、食欲の増進には結びつかず、そこに酸味や水分などの要素が絡まるからこそ、はじめて次の一粒、一房に手を伸ばそうとするのではないかと、そんなふうにも思ってしまう。

 国内のミカン収穫量は年々減少が続いており、最盛期の3分の1以下にまで減ってしまったと、これは青果市場の立ち話でもれ聞いた話だが、消費者の求める味のその先をつくり出そうというあくなき作業が、必ずしも消費の伸びにつながるとは限らないところが悩ましい。

 以前、子どもを対象にした味覚の実験で、鼻をつまんだ状態ですりおろしたリンゴを食べたことがあるが、このときはリンゴの味がほとんどしなかった。味を認識するためには、鼻で感じる香りや、食べ物の歯ごたえや舌触りなども重要なのだと、このとき痛感した。もっとも、風邪をひいたときに味が失われてしまうことなど、多くの人が体験していることなのだが。

 おいしさとは、さまざまな要素から立ち上がる複合的な感覚で、香りや歯ごたえといった数字には還元されない要素も多く含まれる。気温や湿度が変わるだけでも、その基準は変わってしまう。深まる秋、食べ物の味をじっくりと味わいたい。
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