玄関の唐破風屋根に浮かぶ木彫りの鯉が、二十数年前と変わらぬ姿で迎えてくれた。東京都杉並区高円寺にある創業83年の老舗銭湯「小杉湯」。風呂なしアパート住まいの学生時代、毎日のように通った懐かしの場所だ▼再訪のきっかけは数年前にさかのぼる。桐生八木節まつりにも出演している高円寺阿波踊りチームが写真展を開くという。チラシを手に取って開催場所を見たら、懐かしい銭湯の名前に気づく。古い友人の健在ぶりを知るようでうれしかった▼とはいえ、再訪の機会はないまま数年が過ぎる。先日、都内で浪人中の長男と久しぶりに再会した。どこへ行きたいかと聞くと、父が学生時代に通っていた銭湯に行きたいという▼まだ長男と一緒に住んでいたころ、小杉湯を紹介したNHKのテレビ番組「ドキュメント72時間」を一緒に見たことがあった。そのときに懐かしがっていた父の言葉を覚えていて、いつか親子で一緒に行こうと決めていたらしい▼念願かなっての銭湯再訪。昔お気に入りだったロッカーや洗い場を使い、久しぶりに親子で楽しい時間を過ごす。息子と2人で再び訪れる日が来るとは…。木彫りの鯉に見送られながら、時の流れをしみじみ感じた。(針)
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銭湯を泳ぐ鯉
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