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買い物をする楽しみ

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 ほしいものを手に入れるために、私たちは代金を払って取り引きをする。毎日繰り返している基本的な営みの一つなのだが、ときには買い物という行為の中に、深い満足感を覚えることもある。金額の多寡の問題ではないし、ほしかったものを入手できた場合とも限らない。

 例えば、小売り店を訪れて品定めをしているときに、製品についての適切な情報が店主から与えられるとすれば、それはうれしい。それによってよりよいものを手に入れることができたという実感があれば、結果として同じものを選んだとしても、情報提供がないときよりも満足感は高まる。ときには店主との対話のやりとりそのものに心地よさを覚えることさえある。

 「この野菜はなぜ高値なのか」「この洋服のつくり手はどんな企業なのか」…。そんな買い手の疑問に、てきぱきと答えてくれる店主の対応に接したりすれば、その店で扱われている商品への信頼感はいっそう高まる。最初は割高だと感じていた品物さえ、納得して購入できる場合も少なくない。信頼の置ける人の有無は、大きな分岐点だ。

 今年4月に発生した熊本地震の際、被災地でつくられた商品を積極的に購入することで、被災者を応援しようといった動きが活発だった。東日本大震災の福島第1原発事故を教訓に、質的には同じ電気でも、よりクリーンな発電手段によってつくられたエネルギーを使おうと、太陽光や風力に由来する電気を選ぶ人たちが増えた。普段の消費行動を通じて少しでも社会をよくしたいという、小さいながらも明確な意志の表れである。

 自分で納得して選択するという消費行動を通じて、私たちはプラスアルファの満足感を得ることができる。そこには信頼できる人や情報サービスの介在がどうしても必要になる。同じ品質の製品ならば、より安価なものを購入したいという気持ちは誰もが抱いているはずだが、さらに、品質でも価格でもなく、買い物をするという行為そのものが持つ楽しみをどう提供できるのか。そこにこそ商いのこつがあるような気がしてしまう。

 今後、限られた資源の中で、大量生産の時代はおそらく続くまい。ものを生産する人とそれを消費する人とをつなぐ売る人の役割は、これからもっと大切になるはず。ネット全盛の時代だからこそ、商人たちの言葉をあてにしたいと思うのだ。
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